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2018/10/11

認知症のひと本人を見ようとしない日本の成年後見制度の現場報告

認知症の人と家族の会 東京都支部会報「きずな」2017/06 掲載

認知症の人と家族の会は「国際アルツハイマー病協会」(英語名:Alzheimer's Disease International、ADI)の日本支部でもあり、2004年と2017年に京都で国際会議を開きました。
この会議は専門職だけでなく認知症の人も介護家族も発表できるのです。

2017年4月 京都で開催した「国際アルツハイマー病協会(ADI)第32回国際会議」の報告書はこちら: http://www.alzheimer.or.jp/?p=11916

2004年10月 京都で開催した「国際アルツハイマー病協会第20回国際会議・京都・2004」(20th International Conference of Alzheimer’s Disease International, Kyoto 2004)の概略はこちら: http://www.alzheimer.or.jp/?page_id=1701


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本人の意思尊重と個人的配慮はどこへ?ー日本の成年後見制度に関するレポート
認知症のひと本人を見ようとしない日本の成年後見制度の現場報告

Where is "Respect for Intention and Personal Consideration of Adult Ward"?
-Report on The adult Guardianship System in Japan-

会員 ○○○○○○


私は認知症高齢者(伯母)の親族後見人の立場から、前回2004年の国際会議で「親族後見からみた成年後見制度」という口頭発表をさせていただきました。2009年に伯母が亡くなり、1回目の後見人の仕事は終わりました。その伯母が亡くなる数年前から今度は父がアルツハイマー病と診断され、再び成年後見制度の利用を考えねばならなくなりました。
私自身は法律や介護の専門家ではなく、下記のようにたった二つの事例だけの経験ですが、約10年前の1回目の経験と比較して一番驚いたのが、家庭裁判所が認知症のひと本人とその生活を見ないまま「後見開始」の審判を下したことでした。前回に続いて制度に対する疑問は増える一方でしたが、今回の国際会議ではこの点一つに絞って口頭発表しました。

私と親族後見の背景
後見1回目:2003~2009年  伯母(70代後半~) 要介護度2
後見2回目:2014年~現在進行中 父 (80代後半~) 要介護度3
同じ介護療養型医療施設に入所後、申立をしました。
2回目の申立から審判までの間に後見制度支援信託か後見監督人をつけるか迫られ、後見監督人を選びました。同時に「本人調査をすると本人が不穏になる傾向が高いし、本人調査も鑑定もしないで後見開始の審判をする」と家裁から連絡があったため、「本人調査・鑑定をしない理由、後見監督人が必要とする理由など」を問う意見書を家裁に出したところ、調査官と会って話をすることになりました。

家庭裁判所に本人調査と鑑定を省略する理由を尋ねたところ、調査官は6つの理由をあげました。
1 調査に行くと本人が不穏になり、家族からクレームが来る。
2 本人の意思の確認ができないことが多い。
3 調査も鑑定も省略して審判をすれば、制度を早く利用できるようになる。
4 本人調査をしてもしなくても、現実には「後見開始」という結論は変わらないことが多い。
5 家庭裁判所の人手が足りない。
6 医者の診断書があれば十分だし、調査官が本人調査をしても医者の意見を覆せることはあまりない。意見書がおかしいなと思ったら鑑定する。

みなさんはどう思われますか?ー私の反論はこうです。
【1 調査に行くと本人が不穏になり、家族からクレームが来る】
家族全員が調査を望んでいるし、本人が不穏になっても施設スタッフが対処できます。
調査官の認知症のひとへの対応の仕方や能力に問題はないの?
1回目の時は調査官が事前に伯母本人とどのように接するか私に具体的に確認して下さったのに。
そもそもクレームが来るから省略するということがおかしいと思いませんか?

【2 本人の意思の確認ができない】
本人の理解力がどれくらいのものか医者の診断書だけでは計れないのでは?
成年後見制度を説明することは認知症に関係なく難しいです。「病名告知」にも通じることですが、本人がどれだけわかる・わからないかは個々で違います。
又、短時間であっても本人の生活環境や家族・介護スタッフなどとの関係をみること、情報交換ができることも大事ですよね。申立書類には介護・看護専門職の記録などは求められていませんし、その方たちへの聴取も無いのです。
実は2005年出版の判例タイムズ1165「東京家裁後見センターにおける成年後見制度運用の状況と課題」(東京家庭裁判所後見問題研究会)にはこんな記載があります。
「本人調査の法的根拠と目的:本人調査は本人の陳述聴取及び同意の確認の他、本人の監護状況、心身の状況並びに申立人及び候補者との関係を確認する貴重な機会となる。(中略)面接調査による直接の観察や陳述聴取に勝るものはない。」
【3 調査も鑑定も省略して審判をすれば、制度を早く利用できるようになる】
私たち家族は審判を急いではいない。身寄りのない方、虐待が疑われる、財産横領など緊急対応が必要な例が増えているそうですが、成年後見制度だけではなく別の方法があります。仮に成年後見制度利用を急ぐ必要があったとしても、緊急避難的な運用を一般化していいとは思えません。
この件について会場のオーストラリアの方からご意見をいただきました。
「本人に会わないことはあり得ない。仮に緊急対応が必要で省略せざるをえなくても、その後 決められた期間内に調査しなければならない」と。
【4 本人調査をしてもしなくても、現実には「後見開始」という結論は変わらない】
いや結論の問題じゃないでしょう?
家裁が持っている情報は医師の診断書と申立人が出す書類と申立人・後見候補者の面談だけです。特に本人の意思を計る・介護状況などについての書類のひな形は書く部分が少ない。で、上記2の反論に戻ります。

【5 家庭裁判所の人手が足りない】
家裁の人員不足は裁判所の問題です。本人調査や鑑定を省略していい理由になりますか?
2000年制度発足時から素人でもわかっていたことです。
「東京家庭裁判所後見センターの実情:作成 日景聡裁判官」によると、2016年の同センターの管理中の件数は全部で約1万7000件、裁判官3名・書記官37名でこなしているそうです。ところが最高裁事務総局はなかなか家裁の職員を増やしません。国会の裁判所職員定員法改正法の質疑で毎年同じような答弁をしているのがわかります。

【6 医者の診断書があれば十分だ】
セカンドオピニオンという意味でも鑑定は必要ではないですか?
医者の質の担保はされているでしょうか?
家裁の作った診断書のひな形はA4一枚です。調査官は「医師の意見書を覆すだけの知識が裁判所には無いし、提出書類と手続きがちゃんとしていればよい」と言います。
「書類だけ見ないで、本人を見て」と言いたいです。

後見開始の審判の場合、省略しても違法ではありませんが・・・
1 家事事件手続法 第119条:家裁は本人の「精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない」が「明らかにその必要がないと認めるときは」省略できる。
2 同 第120条:審判をする時は本人の陳述を聴かなければならないが、後見開始の場合は「心身の障害によりその者の陳述を聴くことができないときは」省略できる。
以前は要介護度5など重度認知症の場合は省略されることはありましたが、この「省略する事が出来る」という部分をどんどん拡大解釈して運用しているように思います。

斎藤正彦医師(東京都立松沢病院院長)は2011年 市町村長申立時の鑑定の省略について警鐘を鳴らされています。
「一番の問題は成年後見制度の代理権を利用して、実質的に介護措置の方法を患者さんに押しつけるという方法を行政が後押ししているということです。行政が責任をとらないですむ方法を後押ししているということです。そういう使い方は誤りであるというふうに私は思います。
せめて家庭裁判所がそういう使われたがされないようにきちんと鑑定をし、本人面接をしていればよい。ところが家庭裁判所は市区町村長から申請されたケースについて鑑定を求めるということはめったにありません。行政が要請しているんだからもうほとんど自動的に認められてしまうということになります。」

権利擁護ってなんですか?
本人の意思の尊重ってなんですか?
現在の成年後見制度は認知症のひとは「財産管理」されるだけで、個々に向き合う制度運用・態勢にはなっていません。昨年2016年4月「成年後見利用促進法」が成立しましたが、障害者の方々は国連障害者権利条約のもとに反対声明を出されました。
「認知症の人と家族の会」はどうでしたか?

国際会議で学んだことは認知症のひと個々の人権を基本に置くという当然のことでした。そして「おかしい」とこだわる人が私だけではないということも知ったのです。
みなさんは「本人を見ないで審判」してしまうことをどう思いますか?

最後に、私のような専門職でも研究者でもない者にも発表する機会を与え、世界中の認知症のひと、専門職や研究者の方々と話し合える機会を下さったこの国際会議に関わられた全ての方々に感謝致します。

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2018/09/02

親族後見人経験2回の概略

認知症高齢者の親族後見人経験2回の概略
(被後見人死亡により終了)

 後見1回目:2003年~2009年
 後見2回目:2014年~2017年(専門職後見監督人選任)

二回とも被後見人は私の親族であり、同じ介護療養型医療施設に入所後、申立てた。
1回目の申立は家庭裁判所の「後見監督センター」立ち上げ直前であり(非訟事件手続法・家事審判法)、
2回目は後見制度支援信託(又は専門職後見監督人の選任)、後見人等職務説明会が導入された。(新非訟事件手続法・家事事件手続法)


2回の比較 1回目 2回目
後見期間 2003年~2009年 2014年~2017年
後見人との関係 伯母(独身)
申立時年齢 70歳台後半 80歳台後半
申立時病名 アルツハイマー病 アルツハイマー病
申立時要介護度 要介護2
(死亡時:要介護度5)
要介護3
(死亡時:要介護度5)
申立時住居 介護療養型医療施設 同じ介護療養型医療施設
扶養家族 なし あり(妻)
「後見開始」申立 法定後見 法定後見
管轄裁判所 東京家庭裁判所 同 立川支部
申立人・後見人候補者 親族(姪) 親族(子)
申立人・後見人候補者面接 調査官 参与員
本人調査 あり(調査官) なし
鑑定 あり
(在宅時主治医・入所施設医師)
なし
後見監督人 なし あり(弁護士)
報酬付与 あり(後見人) あり(後見人・後見監督人)
特記 遺産相続(本人の母親死亡による・相続人は本人ら子3人) 居宅以外の不動産売却(病前より本人が売却媒介契約) 金融資産の部分移行(本人名義口座間)
病名診断 2000年:中期 2008年:初期
在宅介護 通い介護
要介護の本人の母親(2002没)含む
家族同居

成年後見制度利用促進反対声明

私は2度の親族後見人を経験した結果、制度発足時から現在までの家庭裁判所の成年後見制度の運用実態の詳細な検証をしないまま、制度を「利用促進」する事に反対の意を家族と共に2016/04/04表明しました。

メモ:山本太郎議員が2016/04/05参議院内閣委員会で質疑の最後に読み上げて下さいました。(傍聴席にいた私はびっくりでした)
「今からこのメールをお読みする方は、親族後見人として認知症高齢者を二度介護した経験を持つ方です。制度が開始された2000年から後見制度を実体験された方が本当に見直す部分は何なのか、その本質について教えてくださっています。」


国会議事録:
【2016/04/05】第190回国会 参議院 内閣委員会 第8号 平成28年4月5日

録画映像:
参議院録画のツイキャスはこちら (後日 youtubeに抜粋アップ予定)

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成年後見制度利用促進法案反対声明







私たちは認知症高齢者介護家族・親族後見人の立場から

「成年後見制度の利用の促進に関する法律案」
「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正
する法律案」に反対します。

反対の理由
■成年後見制度の「本人の権利擁護」という基本理念は制度発足時から、
既に唄われているではありませんか。
制度発足前 平成11年の審議内容を読み返されてはいかがですか?

そもそも家庭裁判所の後見係の実態調査をこの16年間どれだけおやりになってますか?
制度の入り口、申立手続から「本人を見ない」ことが常態化している昨今の家庭裁判
所の状況をご存知ですか?
個々のケースについてきめ細かく考慮して審判に至る状態ではないのです。

まず 制度発足の最初から以下の問題があります。
本人の介護・看護その他 その時点で本人の生活に関わる人たちの
  • 情報を裁判所が得ようとしないこと
  • 精査しようとしないこと
  • 意見が反映される方法がないこと。
本人の介護・看護その他 その時点で本人の生活に関わる人たちが
    裁判所に対して異議申立ての道が少ないこと。
そして
本人の調査、鑑定を省略:なぜ以前にできた事ができなくなったのでしょう?
2003年申立時は本人調査も鑑定もありました。
その時の調査官は事前に 私の本人調査への対応の不安を見事に払拭し、
本人自身、本人の暮らす施設環境、スタッフ、そして本人と後見人候補者である
私との関係(感情)など細かく調査して下さいました。

■成年後見制度が「十分に」利用されていない理由は
家庭裁判所の本制度の運用実態が本人の権利擁護を最優先とせず、
本人以外の家庭裁判所を含む人員不足・能力不足と本人以外の家庭裁判所を含む金融
機関、行政などの責任回避と利便性・効率性に重きをおいているからです。
医療行為の同意、郵便物等の管理や死後の問題など、
確かに本人の「権利擁護」の為に論議する必要性はあると思います。
しかし、本当に「本人の権利侵害と権利擁護」のぎりぎりのラインを見定めよう
としていますか?
実は 本人以外の者がただ事務処理をしやすくしたいという願望の方が勝ってい
ませんか?
「本人の権利侵害と権利擁護」の見定めをきちんとチェックする者はいますか?
そもそも「本人の意思」を知ろうとしていますか?

■成年後見制度の利用を促進する前に、
本人以外の者や組織の立ち位置をまず見直し、家庭裁判所の現場の方々の執務状況を
精査し、人員を補強、養成する事が先決ではないでしょうか。
利用促進会議や促進委員会の設置に予算や時間を無駄に費やす必要はありません。
もう16年経っているのです。
本制度発足時前から家庭裁判所の人員不足は素人の私たちでも予測できました。
「権利擁護」が建前だけなのも、この16年間で実感致しました。
二度の親族後見人経験だけでも、裁判所による制度運用の劣化は著しいものです。
既に、裁判所自身が機能不全を起こしているのではありませんか?
裁判所自身が根本的な問題に自ら取り組まなければ、財産上だけでなく身上の不正を
増大させるだけです。
裁判所の人員不足を補う為に「市民の中から成年後見人等の候補者を育成しその活用
を図る」というのは、あまりに安易すぎる考えです。

法律上ではあいまいな事柄が全て裁判所内の規定で変更、決定されているようです。
親族後見の不正防止対策としての「後見支援信託」と「後見監督人選任」
裁判の迅速化対策としての「医師の診断書」重視で「本人調査・鑑定不要」
家裁の人員不足対策としての「参与員増員」

全てにおいて、裁判所の「内規」で決まり、基準が明らかにされません。
裁判所の責任(人員補強、監督の不備)を「親族後見人の不正防止」対策で誤摩化し
ていると思えます。
裁判所の親族後見の不正の統計では総数と総額だけが出され、どのような不正か細か
く発表されていません。
弁護士会や司法書士会が調べた資料では、裁判所の不適切な後見人選任の問題、裁判
所の説明不足、裁判所の後見監督の怠慢なども不正の理由としてあげられています。
又 後見人の不正のほとんどは親族後見人である一方、一件あたりでは数は少なくと
も専門職後見人の不正による被害額は倍以上になっています。

■最後に
裁判所自身の人員不足と後見人選任の責任、後見監督の責任を回避するために、個々
の状況を精査しないまま、「後見支援信託か第三者監督人選定」という外部委託を強
制して、
まじめな親族後見人の邪魔をしないで下さい。
本人の財産から無駄な支出をさせないで下さい。

以上

2016年4月4日
認知症高齢者の家族 
認知症高齢者の家族・親族後見人

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